読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

簡素な生活。

サカタカツミのブログ。連載のサブノートが中心。すべての働く人たちに。役に立つ話も立たない話もあり。

故きを温ね新しきを知る。

最近、50年近く前の広告やマーケティング、メディアについて書かれた書籍を手に入れて読んでいる。ずっと以前にも同じことをしたけれど、原点回帰という感じで。大昔に書かれた本だからといって、内容が古びているわけではない。逆に、いま巷で売られているビジネスハウツー書や、ライフハックと称したサイトで声高に叫ばれている、さもこの瞬間に発見したかのような原理原則の多くは、すでに半世紀も前に語られていることも少なくないのだ。しかも、飾り気のない、でも、鋭い言葉たちは、古書のそれが上質だ。

宣伝術 (1963年)

宣伝術 (1963年)

 

本の背には「遂に発見された宣伝の法則性!」とあるこの本は、広告に携わっている人間なら知らない人はいないだろう。名著の中の名著である。広告の本質が簡潔、かつ、わかりやすく整理されていて、いま読んでも参考になること請け合いだ。例えば、広告レンズの焦点なる項に、次のようなことが書かれている。

消費者は一つの広告については、ただ一つのこと、つまり、ある強力な主張とか、何か強力な概念とか、そういった一つのことしか覚えないものだ。(61pより引用)

その通りである、といってしまっては身も蓋もないが、こういう当たり前のことを忘れてしまっている広告は、いまの世の中にも少なくない。

これが広告だ―マジソン・アベニューUSA (1962年)

これが広告だ―マジソン・アベニューUSA (1962年)

 

この本も広告に携わっている人間なら知らない人はいないだろう。いま読み返すなら第四部の「生活の実態を調査して」の中の「農家の主婦から積分まで」が興味深い。ビッグデータ全盛の昨今の、データオリエンティッド、逆に言えば盲信状態と、この時代の心理学と連動した動機調査(モチベーション・リサーチ)の流行がとてもよく似ていることがわかる。以下の引用で、その様子が分かるだろう。

(前略)顧客の特質、特定の販売店の販売状況、顧客の商品に対する好み、調査員によって広告効果などの市場のいろいろな局面を、長期契約もしくは単発契約で測定しているものもある。(260pより引用)

調査している項目をみると、当然のことながら、半世紀以上前と何も変わっていない。

毎月何十万という市民が面接調査を受け、数千の店の売上が調査され、幾トンものIBMのパンチカードが自動計算機を流れ、何連もの統計表やグラフや図表、分析表が、広告主や、販売部長、広告部長、広告代理店業の社員のデスクの上に殺到するようになった。(260pより引用)

どこかでみたような、それもつい最近みた光景と同じだ、という人も少なくないだろう。

しかし、それでも未だ広告から完全に危険を取り除くまでにはいたっていないのである。(260pより引用)

そう、半世紀の時が過ぎてもまだ、リスクは回避できていない。笑ってしまった。

故きを温ねて新しきを知ることは、意外に楽しいし、そして、自分の思考を一旦「削ぎきって」しまうことができる。いまの世の中には、与えられている材料が多すぎるので。人の本質など、それほど変わらない。だからこそ、簡素な状態に追い込んでみて、改めて、いろいろな思考をしてみると、極めて明瞭な、そして、気持ちのよいくらい本質をついた、シンプルな答えが導きだされる、ような気がしている。